「夫や妻・その他家族が借金している」その事実を知って混乱しない人はいません。
大切な家族なら「自分も協力して返済しなければならない」と思うのは自然です。わだかまりのある関係であれば「借金を返済せずに家族と縁を切りたい」と考えてしまうでしょう。
家族の借金について、当事者でない人がどこまで責任を負うべきなのでしょうか。
借金を繰り返させない方法を含め、家族の対応方法を解説します。
目次
「債務者の家族」に返済義務はない
消費者金融や銀行に対する借金は、あくまでも契約当事者間の問題です。法律上、債務者の家族に返済義務はありません。
貸金業者から「代わりに返してほしい」という連絡をすることも、法律で認められていません。
貸金業法第21条7項(取立て行為の制限)
債務者等以外の者に対し、債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること。
肩代わりしてしまっても「求償権」がある
すでに家族の借金を肩代わりしてしまっている場合、法的には「代位弁済したもの」として扱われます。代位弁済者=借金を肩代わりした人は、債務者本人に対して「お金を返してほしい」と主張することが認められます(求償権)。
「兄弟のうちひとりが借金をしていて、肩代わりした親が亡くなった」という複雑なケースでも、同じ解釈が可能です。このケースでは、肩代わりした返済額を債務者本人の相続分から減らすことで、他の相続人との間で不公平をなくせます。
借入目的が「家族の生活費」でも返済義務はない?
家計が苦しく借金せざるを得なかったケースでも、原則として家族に返済義務はありません。ただし、離婚する場合は別です。
離婚時の財産分与は負債も対象になり、教育ローン・住宅ローン等を含め「生活費目的の債務」も50%ずつ負担すべきとされています。
連帯保証人になっていた場合はどうなるのか
問題となるのは、連帯保証人として家族が契約に参加しているケースです。保証契約をしている家族は、債務額全体に対して責任を負っています。
万が一にも債務者本人の返済が滞ってしまうと、連帯保証人である家族も督促されます。差押え・強制執行といった法的回収手続きも、資力のないことがはっきりしている債務者本人ではなく、保証人である家族に対して優先的に行われる可能性があります。
すでに保証人が督促されている場合の対処法
保証人への督促が始まっていて一括払いにどうしても応じられないのなら、債務者本人と一緒に債務整理の相談を始めましょう。保証人が返済することを約束した上で、弁護士の交渉により利息をカットし再び分割払いに戻してもらえる可能性があります。
やってはならないのは、債務者本人ばかりでなく保証人も督促連絡の対応を拒むことです。
「資力のある保証人なら」と分割払い交渉に応じてくれるはずの貸金業者が、債務者・保証人の両方を信用できなくなったとして法的回収手続きに踏み切る可能性があります。
なるべく早めに専門家に相談し、今後について検討すべきです。
未成年の借金は契約自体を取り消せる
20歳未満の家族が借金している場合、親権者または未成年本人による「契約の取消」が可能です。配達証明付きの内容証明郵便で「親の同意を得ずに金銭賃借契約を結んだこと」を説明し、取り消す旨を付け加えるだけで構いません。
元金返済の義務はあるが「いま手元にある金額だけ」でOK
契約を取り消すと、未成年者と金融機関とのあいだで約束した金利や返済方法といった契約内容はすべて無効になります。したがって、利息・遅延損害金の部分を返す必要はありません。
返済すべきかどうか問題となるのは、利息を除く借入残高(未成年者が契約取り消しまでに借りたお金=元金)です。法律用語で「不当利得」という扱いになるため、元金は親が返さなければなりません。
不当利得とは?
契約等の法律上の理由なく発生した利益のことです。未成年は法律用語で「制限行為能力者」であり、自分の意思で契約を結ぶことは出来ません。親の同意を得ずに勝手に買い物をしたりお金を借りたりした場合、未成年者の得た利益はすべて不当利得として扱われます。
ただし、元金全額を返す必要はありません。
過去の判例で「未成年者の契約による不当利得は“現存利益”だけ返せばよい」とされているからです。既に使ってしまったお金は返さずに、現時点で手元に残っている金額を返済すれば事足りるのです。
家族に借金があるか調べることはできる?
「どうも借金しているようだ」と感じても、契約しているローンの種類・会社の名前などを家族が調べることは不可能です。
調べる手段として最初に行き当たるのが、貸金業者に問い合わせる方法でしょう。
貸金業者には債務者のプライバシーを守る義務が課せられており、契約情報は銀行の預金口座と同等の厳重さをもって管理されています。家族が問い合わせても、契約しているかどうかすら回答してもらえません。
次に考えられるのが、信用情報から調べる方法です。
金融機関でのローン契約情報は過去5~10年に渡って個人信用情報センターに蓄積されており、本人もしくは新規申込を受けた金融機関であれば調査可能です。しかし、やはり家族からの情報照会には応じてもらえません。
ローン契約有無の決定的な手がかりとなるのは「自宅に置いてあるローンカードや明細・請求書類」です。とはいえ、やはりプライバシー保護の観点から、あえて社名すら印字されていないものがほとんどです。
本人に困っている様子があるのなら、直接尋ねるほかないと言わざるを得ません。犯罪や法律トラブルに巻き込まれている可能性があるのなら、弁護士照会(行政や金融機関に対し情報開示を求める権限)を利用するのも一手です。
「これ以上借りさせない」と思った時に利用できる制度
貸金業業界では、ギャンブル依存症等の増加を背景に「貸付自粛制度」が設けられています。
本人または家族から申し入れをしておくことで、銀行または消費者金融・カード会社による融資をストップしてもらえます。ローン契約が必要になったときは、再び申し入れるだけで貸付停止を解除可能です。
「これ以上借金してほしくない」「家族の力ではどうにもならない」と感じたときは、貸付自粛制度を利用してみましょう。
貸付自粛制度の利用方法
貸付自粛の申し入れは、日本貸金業協会への訪問または郵送で手続き可能です。
貸付自粛制度利用時に必要なもの
- 本人確認書類(本人と申し入れする人の計2名分)
- 記入済の「貸付自粛申告確認書」
- 返信用切手392円分(郵送手続きの場合)
- 本人との関係が分かる「戸籍個人事項証明書※」
※申し入れする人=親権者の場合は必要
参考:日本貸金業協会「貸金業相談・紛争解決センター」(リンク)
手続きが完了すると、個人信用情報センターに貸付自粛登録が行われます。信用情報は与信審査の過程で必ず参照されるため、自粛解除までローン新規契約は出来ません。
まとめ:家族の借金問題には早めの対処を
家族が隠れて借金をしていたとしても、連帯保証人でない家族に返済義務が及ぶことはありません。とはいえ、黙認することも出来ないでしょう。生活や家族の信頼関係に悪影響をもたらし、債務者本人の困窮が進めば「ローン契約で勝手に名義を使われた」「印鑑を持ち出して連帯保証人にされてしまった」という深刻な問題に発展しかねません。
本人が未成年者でない限り、家族が借金問題の解決に向けて動くのは困難です。
なるべく早めに本人と話し合い、弁護士への相談を含めてサポートする姿勢を見せることが大切です。