株・FX・仮想通貨などの取引は、評価損の拡大による追証(追加証拠金)請求のリスクを常にはらんでいます。突然数十万円~数百万円もの請求がかかる例もあり、投資どころか日常生活すら厳しくなってしまうでしょう。
万が一のときにどう対処すべきか・債務整理で支払い額を減免できるのかという点について、投資家の必須知識を紹介します。
目次
そもそも追証とはなにか
追加証拠金とは、証拠金維持率(もしくは委託保証金率)が一定水準を下回ったときに発生するものです。
手元にある資金以上の取引をする場合は、あらかじめ証拠金を入金しておかなければなりません。証券会社から指定された保証金の額は「必要証拠金」と呼ばれます。
最初に必要証拠金を入金しておいても、取引中に評価損益が反映されて口座内の証拠金額が変動します。そして、必要証拠金の額を下回る(維持率100%未満)状態になると、追証発生が危ぶまれるようになるのです。
追証が発生するパターン
パターン①:取引時間内に強制決済(ロスカット)される
パターン②:取引時間終了時に証拠金維持率100%を下回る
追証の解消方法
追証の解消方法は「追加入金」もしくは「取引中の建玉の返済」のどちらかしかありません、
FXの証拠金取引・株の信用取引では、証券会社から取引対象となる外貨・株式を借りている状態です。これを返済せずに取引を継続する場合は「追加入金」が必要です。
その一方で、投資から撤退することを決意して「建玉返済」を選んでも、なお追加証拠金に満たず入金が求められてしまうケースもあります。信用取引の取り締まりが厳しくなった現在も、10万円~100万円単位の多額の証拠金を突然請求される人が後を絶ちません。
追証が払えないとどうなるのか
追加証拠金が発生すると、解消まで金融取引が停止されます。
証券会社より通知が来て、通常は翌日~2営業日までに解消しなければなりません。それでも請求に応じられない場合は、証券会社=債権者となって対処が始まります。
自宅に督促が来る(追証発生から2週間以内)
追証の支払い期限は長くとも1週間以内であるため、それを越えれば督促が始まります。
証券会社には「貸金業者の督促ルール」が適用されないため、早い段階で電話・郵便物による督促が始まることは否めません。同居家族に知られてしまうことは必至です。
【参考】貸金業者の督促ルール
貸金業者・銀行なら「債務者と音信不通になった」「訴訟手続きを始める」等のよほどの事情がない限り、自宅への郵送物・固定電話への督促は行われません。貸金業法21条により、債務者のプライバシーを侵害し日常生活に影響するような取り立て方法が禁じられているからです。
証券口座が一切利用できなくなる(追証発生から1ヵ月以内)
それでも支払いできずにいると、証券口座から買付余力(現金)を入出金することが出来なくなります。
証券会社間で投資家情報が共有されるため、他の口座を利用することも出来ません。この状態が、追証解消後2~3年間(証券会社ごとの判断による)継続します。
債権回収会社に移転される(追証発生から2ヵ月以内)
最終的には、債権回収会社またはサービサーと呼ばれる会社へ追証債権が移転されます。
この段階になると、いつ差押えor強制執行が始まるか予測できません。転居していないことを確認するため、債権回収会社から委託された在宅確認のスタッフが自宅に訪れることもあります。
裁判所から特別送達の郵便が届いた場合、2週間以内に返信しなければ、預金口座の凍結・給料の差押えにより職場にも状況を知られてしまいます。
追証で”ブラックリスト”に載ることもある
追加証拠金の未払いがローン審査に直接影響を及ぼすことはありません。証券会社は個人信用情報機関※に加盟していないため、口座の取引内容を信用情報に登録すること・過去のローン利用履歴を参照することが一切できないからです。
※信用情報とは:「過去5~10年間のローン取引履歴」を利用者ごとに集約したデータベースのことです。国内3社の信用情報を管理する企業(個人信用情報機関)は、いずれも貸金業者か銀行のみ加盟できます。
ただし、銀行もしくは消費者金融系の債権回収会社に追証債権が移された後は、支払いに応じられないことが信用情報に反映されてしまいます。
いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれる状態に入り、ローン審査への悪影響は免れません。
追証は債務整理できる?払えない場合の対処法
追加証拠金が債務整理できるのは、債権回収会社に移譲されたあとです。債権が証券会社にある状態では、弁護士による交渉を進めることは出来ません。
なるべく選ぶべきでないのは「カードローン等でお金を借りて支払う」という道です。キャッシング先の契約金利が原因でなかなか支払いを終えられず、あまつさえ追証を借金でカバーすることが習慣化してしまうかもしれないからです。
対処①:証券会社に相談する
まずは証券会社のコールセンターに電話して、追証の支払時期について相談してみましょう。
運用については各社明確にされていないものの、分割払いに応じてくれる証券会社が多数派です。
遅延損害金がかかる場合があること・支払約束に一度でも遅れれば債権回収会社に移譲される可能性を考慮し、自分の収支状況になるべく合わせてもらうよう交渉しましょう。
対処②:債務整理を検討する
追証以外にも借金がある場合に限り、弁護士が証券会社以外の債権者と交渉するかたちで「任意整理」が可能です。
手続きの目安は「追証+他の債務=年収の3分の1」です。これは、利用者保護の視点で実施されている貸金業の融資制限(総量規制)と同基準となります。金融機関の審査部門は、追証の債務まで把握することが出来ません。それゆえに、ローン利用者には「追証の支払い義務を負ったまま返済能力以上の借金を重ねるリスク」が課せられてしまうのです。
追証がすでにサービサーに移ってしまっている場合は、速やかに債務整理に踏み切りましょう。訴訟が始まる前であれば、高い確率で差押えや強制執行を防げます。
投資による借金は「免責不許可事由」に該当する可能性あり
投資に何度も失敗して「追加証拠金のための借金が膨れ上がる人」は決して少なくありません。
やむを得ず自己破産を選択しても、投資=浪費またはギャンブルと認識され「免責不許可事由」に該当してしまう可能性があります。万が一免責が認められないと、破産手続き後も借金が残る上、一部の資格職に就けず・戸籍にも残ってしまうことになります。
自己破産の「免責」とは
自己破産はだれでも借金が帳消しになるわけではありません。借金の経緯・今の家計収支を裁判所に報告し、担当裁判官の判断のもと免責決定が得られたときに、初めて返済義務が消滅します。
ところが、借金の経緯が「債権者に害を与える不適切なもの」と判断されると、免責を得ることは出来ません。
どうしても追証のために自己破産せざるを得ない場合、自己判断せず弁護士のサポートを得ることが大切です。
破産手続きにまつわる法律知識・実務経験を活かし、依頼人にとって有利な説明を行うことで、返済義務の免除へと導いてくれます。
まとめ
FX取引所や証券会社で追加証拠金が支払えない場合、わずか1~2週間ほどで自宅への督促が始まります。督促されてもなお支払えない場合、証券口座を凍結された上で債権回収会社への移譲は免れません。
いったん追証債権がサービサーに移譲されてしまうと「ブラックリストに載る」「訴訟手続きが始まって給料等が差し押さえられる」というリスクを常に抱えることになります。
追証発生が確定した段階でで証券会社と話し合う準備をしておくか、弁護士への相談を始めておきましょう。なるべく避けたいのは、新しくキャッシングしてまで追証を解消することです。
どうしても他に道がなく自己破産する場合でも、免責を得るにはプロのサポートが欠かせません。無理をせず、早めに引き際を見極めましょう。