家族が作った借金は“負の相続財産”として受け継がれていきます。
不動産や現金といった積極的な財産だけ相続したいと考えるなら、家庭裁判所に「限定承認」を申立てるのもよい手段でしょう。
相続放棄との違いにも注意しながら、限定承認とはどんな手続きなのか・どういった状況に適しているのかを解説します。
目次
限定承認とは?
限定承認とは、積極財産で消極財産を清算してから相続する手続きのことです。
積極財産とは「プラスの資産」・消極財産とは「借金」を指しています。限定承認を申立てておくと、消極財産が積極財産を上回ってしまっても、清算後なお差額として残る負債を相続することはありません。
【例】限定承認を申立てて相続する場合
①相続財産の内訳=3,000万円の不動産+2,000万円の借金
→承継できるのは1,000万円
②相続財産の内訳=3,000万円の不動産+4,000万円の借金
→相続しない(借金を清算してもなお1,000万円の負債が残るため)
いったん借金の返済義務を受け継いでしまうと、相続した人の責任で返済しなければなりません。積極資産の評価額が今後大幅に下がってしまえば、親から受け継いだ資産だけで自主的に借金を清算するのは困難です。結果、相続した人の信用力を低下させてまで債務整理しなければならないでしょう。
こんな結末を避け、債権者と相続する両方の利益を守るために「相続するときだけ出来るデメリットの少ない債務整理手段」として限定承認の申立が認められています。
相続放棄との違い
相続放棄と限定承認の決定的違いは「清算の有無」です。
相続放棄とは、清算せずに一切の相続財産を受け継がないと宣言する手続きです。いったん放棄の申述をしてしまえば、相続に関して関与する必要はありません。相続人が個別に相続放棄をするか否か決めることも出来ます。
一方の限定承認では、負債の清算というケジメをつける手続きです。清算してなお残った財産は遺産分割協議で平等に分け合う必要があるため、相続人全員で申し立てることが前提でもあります。
限定承認のメリット
そもそも相続とは「残された家族の生活保証」という意味がある手続きです。100%相続or100%放棄の二者択一を迫られることのないよう、限定承認が存在しています。
より具体的で分かりやすいメリットを挙げると、次の通りです。
積極財産に余りがあれば受け取れる
限定承認が選ばれる最大の理由は、積極財産に余りがあれば受け取れる点です。
家族が亡くなった時点の借金は、金融機関が加入中の保険による補てんで残債が減ることもあります。故人所有の財産の価値についても、取得したときよりはるかに値上がりしているかもしれません。
いずれにしても、プラスの財産・負債それぞれの価値変動を把握するのは困難です。「負債のほうが多い」と断定できない状況のとき、少しでも相続分を確保しておくための保険として限定承認が選べます。
債権者に追い回されずに済む
限定承認の第二のメリットは、債権者利益もプラスの財産の範囲で保証できることです。
相続放棄による全損を避けたがる債権者のなかには、死亡日から3ヵ月以内(=相続手続きの開始期限)はあえて督促せず、放棄を申立てられない時期に入ってから取立てを始めるケースも見られます。
早い段階で限定承認を申立てて債権者利益の保護をアピールしておけば、執拗に追い回されずに済むでしょう。残された家族の生活を乱すことのない、限定承認ならではの注目のメリットです。
限定承認のデメリット
実のところ、限定承認はあまり選ばれていません。相続放棄が年間15万件~20万件ほど行われるのに対し、限定承認の申立件数は1,000件以下です。
その理由とは何でしょうか。
相続人全員の同意が必須
限定承認の面倒な点は、法定相続人とされる人全員の同意が前提となる点です。
相続財産を活用したいと望む家族がいなければ、特にこれといった問題は起こりません。
ところが、故人が会社経営者である場合や、故人の持っている不動産で日常生活や事業を行っている人がいたりすると、話がややこしくなります。「自社株式や不動産を売却されては困る(今後も必要とするため)」と主張し、負債の清算になかなか同意してくれません。
清算に手間&時間がかかる
清算そのものにも時間と手間がかかります。現金以外のプラスの資産は、売ってしまわないと弁済に充てられません。そもそもどのくらいの期間で買い手がつくのか、見込み額がいくらなのか先の見えない状況です。処分が終わるまで、家族が責任を持って財産管理しなければなりません。
死亡から10ヵ月経っても手続きが終わらないようなら、課税すら発生します。
状況によっては時間とコストがかかるばかりで何のメリットもないということを踏まえて、よく考える必要があるでしょう。
限定承認の手続き方法&流れは?
公告と清算を必要とするため、限定承認の手続きは長引きがちです。多額の借金が残されていると分かったら、早めに財産の内訳を調べて申立を始めましょう。
①申立
家族が亡くなった日から3ヵ月以内に、相続人が揃って家庭裁判所に申し立てます。遺産の目録・故人と相続人全員分の戸籍をそれぞれ用意しなければなりません。
②公告
相続開始と限定承認の申立を知らせる「公告」が、政府発行の機関紙である官報に掲載されます。利害のある人(相続人または債権者)に名乗り出るよう呼びかけ、相続の手続きに関係者全員が参加できるようにするための措置です。
公告は2ヵ月以上の期間を定めて行われ、期間終了と同時に次のステップに移ります。
③負債の清算
いよいよ本格的に相続手続きが始まり、まずは故人の債権者に対して弁済が行われます。
抵当権等の優先権を持つ債権者が優先され、後順位権者や優先権のない債権者は後から弁済を受けます。
④受遺者へ分配
債権者への清算が終わってもなお積極財産が余るなら、遺言で相続人として指定されている人(受遺者)へ相続分が割り当てられます。
⑤相続分の決定
④までの段階が終わってまだ積極財産があるなら、法定相続人(故人の子&親&兄弟姉妹)が受け取ります。仕上げに相続登記や名義変更を行い、相続税を申告します。
限定承認してもこんなものは受け取れる
限定承認しても、全ての財産が清算されてしまうというわけではありません。家族の生活に必要な次のようなものは、借金返済のための積極財産から除外されています。
限定承認しても必ず相続できるもの
- 生命保険金・死亡退職金(受取人指定があるもの)
- お仏壇・お墓
「子供に借金を残したくない」と思った時は
自分自身が借金を抱えていて相続を意識するときは、生前に債務整理を行っておいても良いでしょう。
任意整理等で残債を減らしておけば、家族が限定承認することでより多くの財産を残せるかもしれません。自己破産・個人再生を行ったとしても、家族の生活への影響はほぼありません。信用力低下や職業制限はあくまでも本人に限られているからです。
まとめ
「借金まで相続したくない」と思った時は、限定承認という手段があります。
相続人全員の同意と負債の清算を“ケジメ”として求められるかわりに、プラスの財産が余ったときに受け取れるのがメリットです。
一方で、借金がある立場からは「家族に余計な手間と心労をかけてしまう」という状況に変わりはありません。自分自身が借金に悩んでいるなら、生前に債務整理することも検討しましょう。