利息を取り戻すための「過払い金請求交渉」には厳しい条件があることをご存知でしょうか?
専門家とよく相談して手続きするかどうか決めなければ、思わぬデメリットを被ってしまうこともあります。過払い金請求の条件(対象者・時効)について、要注意ポイントをご紹介します。
目次
そもそも過払い金請求の条件とは?
過払い金(払いすぎた利息)とは、法定上限金利を超えて返済した部分のことです。2010年の法改正以降は法定上限金利を超える請求が全面的に禁止されたため、最近ローン取引を始めた人は過払い金請求の対象に含まれません。
最初に過払い金請求の条件をまとめると、次の通りです。
過払い金請求の条件
- グレーゾーン金利でお金を借りていた
- 最後の過払い金発生時から10年以内
- ローン利用当時の金融機関が倒産・廃業せずに今も存続している
特に気を付けるべきなのは、条件②と③です。
条件①のグレーゾーン金利から順に確認してみましょう。
条件①グレーゾーン金利でお金を借りていた
グレーゾーン金利が存在していたのは、改正利息制限法の完全施行日である2010年6月18日までの期間です。完全施行までに下記の金利を超える契約をしていた人は、過払い金請求の対象者です。
【利用限度額別】法定上限金利一覧
10万円未満:20%
10万円以上100万円未満;18%
100万円以上:15%
条件②最後の過払い金発生時から10年以内
これから交渉しようとする人が必ず理解しておくべきなのは、過払い金請求には10年の時効が設けられている点です。
過払い金を法律用語に変換すると「ローン契約者の金融機関に対する不当利得請求権(債権)」です。民法の規定では、債権を行使しなかった場合10年で消滅するとされています。
第167条第1項
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
つまり、払いすぎた利息がある状態で請求交渉をしないまま10年が経過すると、時効により法的に請求権が失われてしまうのです。
2019年はグレーゾーン金利が完全撤廃されてから9年目です。過払い金請求権を持つ人のほとんどが時効を迎えつつあり、状況に関わらず手続きを急ぐ必要があると言えます。
「一連取引」が認められれば時効後も請求できる
過払い金請求先の金融機関と過去10年以内に取引していた場合は、グレーゾーン金利当時と直近の取引を「一連取引」という扱いに出来る可能性があります。
一連取引という扱いになれば、過払い金請求権の時効起算点=過去10年以内に行われた最終取引日になり、時効を後ろ倒しにして過払い金請求することができるのです。
一連取引とみなされるための具体的な条件
- グレーゾーン金利撤廃後も、同じ契約かつ同じ金融機関で取引を続けていた
- 「過払い金が発生した取引」と「過去10年以内に行われた取引」との間隔が短い(1~3ヵ月程度)
- 契約更新・契約内容の見直し・年会費支払等が発生している
一連取引の代表的なパターンは「グレーゾーン金利撤廃後に利用先金融機関が別会社と合併し、そのあとも利用していた」というものです。
他にも「金融機関からの勧誘で契約更新していた」「クレジットカード名称変更によるカード再発行を経て利用していた」といったケースが、一連取引として見なされる可能性があります。
一連取引という扱いは過去の判例に基づくものであるため、一般の人ではなかなか判断できません。弁護士に相談してみる必要があります。
条件③ローン利用当時の金融機関が今も存続している
条件①~②を満たしていても、ローン利用当時の金融機関が廃業・倒産してしまった後では、請求する手立てがありません。金融機関が消滅するパターンを3つにわけると、それぞれ過払い金請求権の扱いは次のようになります。
パターン1:倒産or破産した場合
…過払い金請求権は「免責債権」となって消滅する。
パターン2:廃業した場合
…会社がなくなると同時に負債も清算される扱いとなるため、過払い金請求権もなくなる。
パターン3:吸収合併によりローン利用当時の運営形態ではなくなっている場合
…過払い金請求可能(現在の運営母体に旧企業のローン契約が引き継がれているため)
貸金業者は急激に減っている
グレーゾーン金利が撤廃されて以降、貸金業者は倒産・廃業によって次々に消滅しています。
金融庁が毎年発表する貸金業界の統計資料(リンク)によると、貸金業者数は2007年~2012のあいだに約半分まで落ち込みました。
経営が立ち行かなくなった会社のなかには、2010年に破綻した武富士のように「過払い金請求権を放棄すること」をわざわざ利用者と約束している会社もあります。
かといって、ローン利用当時の金融機関が大企業に吸収されて残っていたとしても、これから払いすぎた利息を取り戻そうとする人にとって不都合があります。
過払い金請求はなぜ難しい?
過払い金請求するための条件は厳しく、請求できたとしても貸金業者から返還を渋られるのが常です。自己判断で交渉を始めず、訴訟代理権※を持ち貸金業界の動向に詳しい弁護士に依頼するのがベストです。
【参考】訴訟代理権とは?
被告または原告のかわりに裁判所で手続きを進めることが出来る、弁護士にしか認められていない権利のことです。
「一連取引」は交渉の長期化に繋がりやすい
一連取引についてははっきりとした法律がなく、最高裁の判例や状況しだいで扱いが大きく変わります。
貸金業者から「それでも過払い金請求の時効は成立している」と強く主張された場合にどう反論するか、そのノウハウを持っている弁護士に頼むことが交渉成功のカギとなります。
大手金融機関は訴訟に積極的
大手消費者金融(アコムやアイフル等)や銀行は、訴訟を起こすことに積極的です。
その理由は、大手企業としての体裁と資金力にあります。
利息返還に応じすぎると、さらに過払い金請求が殺到して会社の資本が目減りします。株主向けの情報で過払い金請求の対応状況を公開しなければならないのも問題です。発表内容しだいで株価が大きく下がり、やはり経営に悪影響をもたらすことになります。
過払い金請求を行う側にとっての困難は、吸収合併前の金融機関に対して請求したいケースです。
過払い金発生当時は規模の小さいサラ金だったとしても、請求の際は吸収先の大手企業と交渉しなければなりません。訴訟を含めた強硬な対応をされてしまうため、貸金業者との交渉に長けたつ専門家の力は欠かせないと言えます。
貸金業者から追加で条件が課せられる場合がある
たとえ過払い金請求に応じてもらえたとしても、貸金業者から追加の条件が課せられる場合があります。
追加条件の例
- 今あるローン残債の一括返済
- 時効を迎えた債務の履行
ずっと同じ会社と取引を続けている人が過払い金請求しようとすると、現在あるローンの契約条件に盛り込まれている「期限の利益」がなくなってしまうことがあります。
残債は一括返済に切り替わり、支払えない場合はブラックリストに掲載された上で再度分割交渉しなければなりません。
さらに、過払い金返還と引き換えに「踏み倒している状態の借金を返してほしい」と言われる場合があります。本来なら時効により消滅するはずの債務が復活してしまうことは、決して良い事とは言えません。
やはり、専門家にしっかりと状況を調べてもらう必要があるでしょう。
まとめ
過払い金請求の条件で特に厳しいのは「時効」と「貸金業者が現在まで存続しているかどうか」の2点です。
金融機関の吸収合併が進んでいる今、訴訟や追加条件をちらつかせる大手企業を相手取ることを覚悟しなければなりません。一連取引を主張しようとすると、なお激しい抵抗に遭うでしょう。
過払い金請求交渉の成功をより確実にするなら、債務整理全般を専門とする弁護士に頼むのが近道です。刻一刻と時間が過ぎるのに任せるのではなく、早めの相談を心がけましょう。